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東京高等裁判所 昭和59年(行ケ)36号 判決

事実及び理由

(争いのない事実)

一  本件に関する特許庁における手続の経緯、本願考案の要旨及び本件審決理由の要点が原告主張のとおりであることは、本件当事者間に争いのないところである。

(本件審決を取り消すべき事由の有無について)

二 原告は、本件審決は、第一引用例及び第二引用例記載の技術内容の認定を誤り、その結果、本願考案と第一引用例及び第二引用例記載の技術との対比において両者の構成上及び作用効果上の差異を看過し、ひいて、本願考案は、第一引用例及び第二引用例記載の技術に基づいて極めて容易に考案をすることができたものであるとの誤つた結論を導いたものである旨主張するが、次に説示するとおり、本件審決の認定判断は正当であり、原告の主張は、理由がないものというべきである。

前記本願考案の要旨並びに成立に争いのない甲第四号証の一中図面(本願考案の実用新案登録願書添附の図面)及び第四号証の三(昭和五八年六月二〇日付手続補正書―全文訂正明細書)によれば、長方形薄板の四辺を直角に折り曲げただけの単純な形態の棚板は、重量物を積載すると、棚全体が彎曲し撓みを生じるので、従来、側板の下端を内方に折り曲げて断面コ字形に形成したもの又は側板の下端を幅を存して上向きに折り曲げて断面U字形にしたものが一般的であつたが、板厚が〇・五mm前後の薄質鋼板を用いる場合には、曲げに対する応力(耐荷重圧)に問題があるため、平天板の裏側に補強材を接合したり、天板自体を凹凸溝形に形成して補強リブ構造にすることが行われてきたけれども、このような方法は、成形加工が難しく、設備が大掛かりとなり、コスト高になるばかりか、材料も多く要るといつた欠点があつたところから、本願考案は、スチール製書庫、物置き等の各種軽量ラツクの棚板において、板厚を極限まで薄くした薄質鋼板を用い、しかも、板面に凹凸溝形の補強リブ構造を採用しないで、力学的にも理想に近い平板鋼板製の棚を簡単、安価に提供することを目的とし、その構成として、凹凸のない平らな面の薄板鋼板製の長方形の平天板1の前後及び左右の両辺に、前後側板3、3及び左右側板2、2が折り曲げにより一体に連成され、左右側板2、2の下縁部に、所要幅Wの連成部4を形成して内方上向きに折り返された折立片5を設け、この折立片5上端の折曲縁6を天板内面1aにスポツト溶接aし、左右側板2、2の内側面部に、該側板2、前記折立片5、連成部4及び平天板1で囲まれる角形の中空部7を形成して框構造とすることとし、本願考案の要旨(実用新案登録請求の範囲の記載に同じ。)のとおりの構成を採用したものであつて、本願考案は、原告主張のとおり、「鋼板製棚板において、側板、連成部、折立片及び平天板で囲まれた角形中空部を一体構造に形成する」構成にその特徴があり、右の構成により、板面に凹凸溝のような補強リブ構造を有しない薄質鋼板の平天板に角形中空部の框構造を確実に形成することが可能となり、板厚も一mm以下の極薄にした軽量ラツク棚を余分な材料を使わず容易に製作することができ、大幅にコストの低減を図ることができるという作用効果を奏するものであることが認められる。

他方、成立に争いのない甲第二号証(第一引用例)によれば、第一引用例(これが本願考案の実用新案登録出願前に国内に頒布された刊行物であることは、原告の認めるところである。)には、長方形平天板の前後及び左右の四辺を下方垂直に折り曲げて側板を形成した棚板において、前方側板の下縁部を天板と平行に折り曲げ一定の幅の連成部を設けたのち、内方上向きに傾斜して折り返し、天板内面に達する折立片を形成し、この折立片の上端折曲縁を天板内面に固着して、側板、連成部、折立片及び平天板とで囲まれる台形の中空部を一体構造に形成したものが記載されており、更に、成立に争いのない甲第三号証(第二引用例)によれば、第二引用例は、本願考案の実用新案登録出願前の昭和四六年五月二七日特許庁資料館受入れに係る棚構造に関する米国特許明細書であるところ、右明細書に開示された発明は、品物を貯蔵するために使用される棚構造に関するものであり、荷重支持能力を犠牲とすることなしに軽量の金属をもつて製造することができ、また、魅力的外観を有し、構造が簡単で、手ごろな費用で製造し得る棚を提供することを目的としたものであること、並びにその目的を達するための具体的構成として、長方形主表面(本願考案の平天板に相当)10の四辺を下方垂直に折り曲げて側板14を形成した棚板において、二つの相対する側板14の下縁部を主表面10と平行に折り曲げ一定の幅の底面部(本願考案の連成部に相当)13を設けたのち、内方上向き垂直に折り返し、主表面10内面に達する側板(本願考案の折立片に相当)15を形成し、この側板15の端部を主表面10内面に固着して、側板14、底面部13、側板15及び主表面10とで囲まれる角形の中空部(管状チヤンネル)を一体構造に形成した構成のもの(別紙図面(三)第一図)及び主表面(本願考案の平天板に相当)50の二つの相対する端をIビームを形成するように順次折り曲げて側板56を設け、これを更に順次折り曲げて前同様の角形の中空部(管状チヤンネル)を形成したものにおいて、内方上向き垂直に折り返し、主表面の内面に達する側板(本願考案の折立片に相当)62の端部を更に水平に折り曲げて水平フランジ64を形成し、この水平フランジ64を主表面50内面に固着した構成のもの(別紙図面(三)第五図)が記載され、それぞれの主表面10、50にリブが図示されていること、そして右リブについては、棚の荷重支持能力を増加するため及びはね返り防止のためリブを設けてもよい旨(第二引用例第一欄第三六行ないし第三九行)記載されているが、右リブを設けることについて要約の項及び特許請求の範囲の項には何ら記載がないことが認められる。そこで、本願考案と第一引用例記載の棚板とを対比するに、本願考案では、平天板の前後部に、折立片を内方上向きに折り返し角形の中空体を形成しているのに対し、第一引用例記載の棚板では、平天板の前部に、折立片を内方上向きに傾斜して折り返し台形の中空部を形成している点で相違するが、その余の構成は一致しているものと認められるので、右相違点について検討すると、第一引用例には、第一引用例記載の棚板において、平天板の前部に、台形の中空部を形成した趣旨についての記載はないが、その構造に照らせば、右の台形の中空部は、主として、原告主張のとおり、怪我の危険防止と品物の出し入れの円滑を図つたものと認められるが、それだけにとどまらず、本願考案の目的とする棚板を補強する効果をも有することを容易に看取することができるから、本願考案の目的は、当業者が第一引用例の記載から容易に予測し得るものというべきところ、更に、第二引用例には、前認定のとおり、同じく棚板の補強を目的として、二つの相対する側板の下縁部に角形の中空部を形成した構成が開示されているのである(第二引用例記載の棚板の角形の中空部に補強目的があることは、原告の自認するところである。)から、第一引用例記載の台形の中空部を第二引用例記載の角形の中空部として本願考案と同様の構成にすることは、当業者にとつて格別困難なことであるとは認められず、また、前認定の本願考案の有する作用効果にしても、第一引用例及び第二引用例記載の棚板の前記の構成及び目的、効果に照らし、それが有する作用効果に比して格別顕著なものではなく、当業者が第一引用例及び第二引用例記載の棚板の構成から容易に予測し得るものということができる。

原告は、第二引用例記載の棚板は、リブ構造と角形の中空部とが協同して補強の目的を達しているのであつて、本願考案のように框構造を意図したものではない旨主張するが、前掲甲第四号証の一中図面及び第四号証の三によれば、前認定の本願考案が意図した框構造というのは、本願考案の要旨にいう角形の中空部の別称と認められ、第二引用例記載の棚板の角形の中空部と技術的思想において異なる意味を有するものとは認められず、また、第二引用例において、棚板の主表面(本願考案の平天板に相当)に設けられたリブは、補強を目的とするものではあるが、棚の補強をより効果的にするための附加的構造にすぎないことは、第二引用例についての前認定の事実から明らかである。したがつて、原告の右主張は、採用することができない。

してみれば、本願考案は、当業者が第一引用例及び第二引用例記載の技術に基づいて極めて容易に考案をすることができたものというべきである。

なお、本件審決は、本願考案では、平天板の相対する二辺に中空部を形成しているのに対し、第一引用例記載の棚板では、一辺にのみ中空部を形成していることについて、右の相違点は、第一引用例記載の図面が平天板の一辺のみを切断して示していることにより生じたものであつて、棚であれば、その長手方向の二辺に補強用中空部を設けることは当然である旨判断しているけれども、第一引用例記載の棚板においては、前認定のとおり、中空体は天板の前方側縁にのみ設けられているのであるから、本件審決の右判断は誤つているものといわざるを得ないが、叙上説示に照らし、右判断の誤りは、本件審決の結論に影響を及ぼすものとは認められない。

(結語)

三 以上のとおりであるから、その主張の点に判断を誤つた違法のあることを理由に本件審決の取消しを求める原告の本訴請求は、理由がないものというほかはない。よつて、これを棄却することとする。

〔編註その一〕本願考案の要旨は左のとおりである。

長方形をなす薄質鋼板の前後及び左右の四辺に、側板2、3を折り曲げにより成形した棚板において、側板2の下縁部に幅Wの連成部4を存して内方上向きに折返し天板内面1aに達する折立片5を形成すると共に、その折立片5の上端折曲縁6を天板内面1aにスポツト溶接aにて接合して、平らな面の平天板1の相対する二辺に、側板2と折立片5、連成部4及び平天板1とで囲まれる角形の中空部7を一体構造に形成してなるスチール製棚板。(別紙図面~参照)

〔編註その二〕本件に関する図面は左のとおりである。

別紙図面(一)

<省略>

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